SSブログ

落語家と通訳者、その共通点 [日々の暮らし]

月の後半になると楽しみにしているものがあります。
地下鉄駅構内で配布されるフリーペーパーです。
「メトロミニッツ」という誌名で、スターツ出版が発行しています。
ページをめくると地下鉄に関する話題はもちろんのこと、
グルメからトレンド、書籍紹介などなど盛りだくさんです。

7月号の特集タイトルは「日々、笑い。」。
落語家・桂宮治さんのインタビューが印象的でした。
桂さんは前職が化粧品のセールス。ある日動画サイトで
観た落語に触発され、「一生の仕事にしたい」と思ったそうです。
そして弟子入りしたのが31歳の時だったと語っています。

私にとっては次の文章が心に残りました。

「お客さんを1秒たりとも退屈にさせられないんです。
一瞬でも飽きさせたら帰られるっていう恐怖感が染み付いてて、
高座でも連続で笑わせたり、惹きつけて、この噺をずっと聞いてたいって
思わせようとしてるし」

うーん、まさに通訳者の心境!!私自身、1秒どころか
0コンマ数秒でも空白が生じると、「このまま一生、私は
訳語が出てこないで詰まったまま沈黙をしてしまうのでは」
という恐怖心が常にあるのですね。もちろん、そんなことには
ならずに済んではいるのですが、この仕事を数十年続けてきた
今でもなお、こうした不安と隣り合わせで日々マイクに向かっています。

ただ、その一方で「間(ま)」をとることも強烈に
意識しています。ある心理学の本で読んだのですが、
人間というのは「7つ」の情報しか最大限、頭に同時に
入らないそうです。つまり、通訳者がマシンガンのごとく
全てを拾って訳出したとて、あまりにも早口になってしまえば、
それは聴き手の右耳から左耳にそのまま抜けてしまうのです。

1秒の空白への恐怖心。

その一方で、間をとる大切さ。

考えてみれば、機械にアソビが必要なように、
通訳アウトプットから日常生活における人間関係、家事・育児
などにいたるまで、すべてにおいて詰め込み過ぎると
息が詰まってしまいます。

ゆえに空白への恐怖心に打ち勝つぐらいの心の強さが
欲しいなあと個人的には思っています。

(「メトロミニッツ」2020年7月号)
コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。