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言葉の深層定義 [日々の暮らし]


ニュースの通訳をしていると、「この日本語を英語に
するには、どういう語で訳出するかな?」と考えたくなります。
これまで特に注目したのが、戦争関連の謝罪発言です。
たとえば以下のようなお詫びの言葉が日本語にはあります:

*深い反省
*遺憾
*痛惜の念を禁じ得ない
*お詫びの気持ち

などなどです。単純に訳せばsorryやapologizeを使って何らかの
形容詞を追加できればまずは通訳できるでしょう。しかし、
上記の謝罪フレーズは、その背後に相当の深刻な出来事が
あったわけですので、sorryなどのシンプルな語では
不十分です。これまで政府や外務省などは、こうした日本語を
英訳する際、非常に熟慮されてきたと私は想像します。

ところで日本語に「残念」という語がありますよね。
「試合に負けて残念」「失敗して残念」などの用法です。
広辞苑には以下の定義が書かれています:

1 心残りなこと。未練のあること。
2 くちおしいこと。無念。

しかし、この「残念」ということば。使いようによっては
「相手への非難の気持ち」も含まれているように私は感じるのです。
たとえば、

「○○について連絡をいただけなかったのは残念です」

という文章。この文章には「あなた」という代名詞は
ありませんが、あえて補えば、

「○○についてあなたから連絡をいただけなかったのは
私にとって残念です」

となります。あからさまではないにせよ、「相手への非難」が
非常に強くにじみ出ているように思えるのです。

辞書で「残念」を引くと、「相手への非難」というニュアンスは
どの定義にも書かれていません。けれども、「残念」の類語である
「遺憾」を辞書で引くと、興味深い記述がありました。
「明鏡国語辞典」には、こうあります:

「事柄が不首尾で、到底容認できるものではないさま。
よくない。まずい。」

さらに解説として「取り返しのつかない行為に言って、
相手側には非難の、自分側には釈明の言い方となる。
謝罪ではない。」

こう追記されています。よって、私は先の「残念」という語を
聞くと、どうしても「相手への非難」が深層部分で
表明されているように感じてしまうのですよね。

何にしても、ことばというのは本当に奥が深く、
難しい部分があると思います。辞書には出ていないニュアンスも
存在しますし、時代によって言葉の語義も変化しています。

同時通訳では瞬時に訳さねばいけないので、
本当に神経を使います。だからこそ、学びには終わりが
ないのだなあとしみじみ思うのですよね。
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