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引きずってはいられない [仕事]

「英日の逐次通訳をしている時、間違えると落ち込んでしまい、
その後の英文がまったく頭に入らず、訳し続けられません。
どうしたら良いですか?」

指導先でこのご質問を何度か受けたことがあります。
通訳者とて人間であり、機械ではありません。
誰でもいつか、どこかで間違えてしまうということは
あるのですよね。

私などいまだにここだけの話(あ、でもこうして
書けば全然secretではないですねえ)、よく
ミスをしては真っ青になっています。ただ、経験と共に
「致命的なミス」をする割合は減ってきました。
そのために必要なのが「徹底的な事前予習」です。

それでも本番中、たとえば放送通訳のニュースで誤訳を
してしまった場合、挽回はなかなか難しいものです。
と言いますのも、ニュースの場合、訂正をするとその分、
次に訳すべき内容を削らざるを得なくなるからです。
時間的な制約があります。

ちなみに私が携わっているCNNやCBSの場合、
事前に一度でもレポートを見ておく、つまり
「半生同通」で臨むことはできません。
まさにその場その場の真剣勝負なのですね。
確かに当日のシフトに入る際、ネットのニュースを見ることで
「出てきそうなニュースの山かけ」はできます。
けれども、実際本番にならないと、何が飛び出すかわからないのです。

そうした最中に単語がわからず言葉に詰まりそうになったり、
思い込みの誤訳で後から焦ってしまったりということは
当然出てきます。ただ、大事なのは、そこでどうメンタルを
切り替えるかなのです。

私の場合、「聞き取れない」「誤訳した」と気付いたら、
とにかくいち早く頭を切り替えるようにしています。
つまり、「引きずらない、絶対に!」と強く自分に言い聞かせます。
なぜなら、聞き取れなかったことも誤訳したことも、
こればかりは「数秒前に起きてしまった『事実』」であり、
その「過去」を消し去ることはもはやできないからです。

頭の中が「ああ、どうしよう!?」とパニックになったところで、
単語の意味を思い出せるわけでもありません。
間違えた訳を無かったことにすることもできません。
今、自分に唯一できることは「過去を引きずらず、
ただひたすら目の前の『今』に集中すること」だけなのです。

私自身、そのような捉え方ができるようになるまで、
ずいぶん時間がかかりました。人間というのは失敗すれば
当然悔やむものですし、後々、心の中に傷を残すことにもなります。

それでもなお現実を直視して、自分のミスを認めて、
二度と同じ間違いを繰り返すまいと心に誓うことだけが、
前に進めさせてくれる、と私は信じています。

このことに私が気づかされたのは通訳現場だったのですが、
実は日常生活における人間関係やその他もろもろのことでも
応用できると思うようになりました。過去は過去。変えられません。
あとはどう自分がそれに向き合うかなのです。
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